• 投稿カテゴリー:小説執筆
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小説を執筆するとき、情景描写に力を注ぐ方はたくさんいます。

そこにあるのは文字だけなのに、それを読めば外国にも宇宙にも、架空の世界にも飛んでいける。

情景描写のパワーは計り知れません。

実は情景描写、単体で使うだけでなく人物描写や心理描写と組み合わせて使うことで、より読者の没入感を誘うことができます。

この点については以前のエントリーにて概要をお伝えしました。

今回は実践編として、様々な描写を組み合わせて「感情の動き」を表現してみたいと思います。

場面設定

威嚇する猫

登場人物はフリーターの青年。バイト先の店長と激しく言い争いをした後です。

今まで何度も店長とやりあっていて、自分の言いたいことばかり主張して店長の話を聞こうともしません。

以前はフォローに入ってくれていた仲間たちが少しずつ距離を取り始めたことに気付いています。

感情を書き出さずに感情を表現

彼がどう感じたか、どんな表情をしたかは一切書きません。

動作や見た目の描写だけで、感情とその動きを表現してみましょう。

出発点

ヘッドホンの青年

店を出た彼の見た目と、彼が見た空模様を描写します。

    • ヘッドホンを耳に装着して早足で歩いている
    • どんよりとした曇り空

今回は箇条書きにしましたが実際は肉付けする必要がありますね。

さて、この2つから読み取れるものは何でしょうか。

ヘッドホンを耳にしていることから、音楽を聴いていることが予想できます。あるいは音楽は聴いていないけれど、音を遮断したいのかもしれません。

つまり、自己主張ばかりで人の意見に耳を貸さない彼の現状が「ヘッドホンを耳に」という部分に投影されています。

また曇り空はもちろん心の曇り具合です。天気は感情表現によく使われますね。

店長とぶつかって「怒り」の感情だけを持っている場合は、曇り空は適切ではないかもしれません。

分厚い雲が停滞している空模様は「もやもや」「葛藤」を表現するのにぴったりです。

自分が悪いのかもしれないけれど、それを認めたくない。でも周囲が距離を取り始めているからどうにかしたい。

こんな葛藤が見て取れます。

感情の変化

雲

早足だった彼が動きを変えました。

    • ふと足を止めた
    • ヘッドホンを外した
    • 雲の流れの速さに気付いた

この3点からどういったことが読み取れるでしょうか。

小説では「ふと足を止める」「ふと◯◯する」の「ふと」は頻出単語です。

辞書的には「何気なく突然」とされていますが、小説では何らかの気付きやきっかけありきで「ふと」が使われることが多いですね。

早足出歩いていたのに突然止まった理由は?赤信号に気付いた、であれば「ふと」は使わないでしょう。

彼は何かに気付き、心の中の葛藤を断ち切ったと想像できます。

では何に気付いたのか。それは「ヘッドホンを外す」に投影されています。言わずもがな、周りの声に耳を傾けるべきだと気付いたのです。

そんな彼が見上げた空、どんよりとしていた雲がものすごい速さで動いていることに気付きます。

さて、冒頭「どんよりとした曇り空」と書きました。「どんより」であれば雲はあまり動いていなかったと考えられます。

とはいえ、これは早足で歩いていた彼が見た空模様です。

早足で歩いていた彼は雲の動きに気付いていなかっただけ、という捉え方はできないでしょうか。

足を止めて気付いた雲の流れの速さ。

自分の行動ひとつで現状を変えられるかもしれない。自分は変われるかもしれない。そんな気付きが読み取れます。

ここまで、彼の心境や表情は一切書いていません。行動と空の描写だけで感情の動きを表現することができました。

次の展開をイメージさせる

雨降り

小説の結末は「この後二人は幸せに暮らしましたとさ」という明確な記述があるとは限りません。

ハッピーエンドではあるけれど、もしかして続編があるかもしれない……と読者に期待を持たせる目的でも、情景描写が役に立ちます。

再び歩きだした彼。頭上の雲はぐんぐん流れています。この後の天気として考えられるのは主に2パターンです。

    • 晴れる
    • 雨が降り出す

彼の背後にサーっと太陽の光が射し込む描写があれば、この後彼は周囲とうまくやっていけるのだろうというポジティブな展開が予想できます。

しかし、空が更に暗くなってきたら?あるいは雨が降り始めたら?

気付きを得てポジティブな気持ちになったように見せかけて、この後何かしらの不幸が彼を襲うのではないか?と想像してしまいますね。

情景描写によって「展開を想像させる」こともできるのです。

想像の余地を与える情景描写

たくさんの傘

感情を言葉で表現できるのが小説です。巧みな比喩表現を用いて心理状態をつぶさに描き出す作家さんは多くいます。

比喩表現を用いず「◯◯だと思った」「腹が立った」というように端的に表現するほうがいい場面もあります。

今回例を挙げたように、感情をあえて言葉にせず情景描写の力を借りると、どうなるでしょうか。

読者はそこに書かれた景色や人物の動作を事細かに読み、流れる空気をイメージし、人物の感情や物語の先行きを想像して楽しむことができるのです。

文章を楽しもう!

小説とコーヒー

感情を示す単語を使わなくても感情が表現できる。しかもこれを「文字」だけでやってのけるのが小説です。

喜怒哀楽を直接表現することが多いな、と感じたらぜひ情景描写や人物描写を取り入れてみてください。

どうにもうまくいかない……。そんなときはぜひnoveRe:の「文章アドバイス」をご利用ください!