文章が読みにくい。意味がわかりにくい。
その違和感の原因は「一文が長すぎること」にあるかもしれません。
言葉も表現もこだわり抜いて書いた作品なのに、それが読者に伝わらないなんてもったいない!
今回は「一文の長さ」に着目し、小説の読みやすさ/読みにくさについて考えてみます。
一文あたりの文字数、目安は?
実はこの問いに対する絶対的な正解はありません。
まずは一般的な文字数の目安と、小説における考え方を確認してみましょう。
- Webメディアにおける一文の文字数
- 一般的な一文の文字数
- 小説における一文の文字数
※以降、文字数は句読点を含みます。
Webメディアにおける目安
多くのWebメディアでは、一文あたり40字~60字程度を目安としています。
パソコンで2行程度、スマートフォンで3行程度に収まる文字数です。
パソコンやスマートフォンでは、パッと見たときに一文が長すぎる文章は敬遠されがち。
とくに最近はスマートフォンで文章を読む人も多いので、「スマートフォンで表示したときの見た目」はとても重要です。
例文:55字
とくに最近はスマートフォンで文章を読む人も多いので、「スマートフォンで表示したときの見た目」はとても重要です。
この例文をスマホ(iPhoneSEの場合)で閲覧すると約2.5行。
すっきりとまとまるので、「長すぎる」「読みにくい」という印象を与えずに済みますね。
一般的な目安
一般的には、一文を80字以内に収めると読み手が理解しやすい、といわれています。
もちろん「80字を超えてはならない」わけではありません。あくまでも目安の文字数です。
例文:81字
普段は一文がおおよそ60字以内に収まるよう意識しながら書いているのですが、今回は例として80字程度の文章を書かなければならないので、文章を区切らずに続けています。
これで81字です。読んでみてどう感じましたか? こちらもスマホ表示にしてみましょう。
文章自体に深い意味がないので、案外さくっと読めてしまうかもしれません。
しかし「長ったらしい」「読んでいて息切れする」と感じる人は少なくないはずです。
やはり「80字」という文字数は、読みやす or 読みにくい・意味が伝わりやすい or 伝わりにくいの境界になるといえそうですね。
これが「小説」になると話が変わってきます。
小説における文字数の制限は?
小説においては、40〜60・80字という文字数の目安をそのまま当てはめる必要はありません。
たとえば太宰治の作品には、こんな一文が登場します。
スウプのいただきかたにしても、私たちなら、お皿の上にすこしうつむき、そうしてスプウンを横にもってスウプを掬い、スプウンを横にしたまま口元に運んでいただくのだけれども、お母さまは左手のお指を軽くテーブルの縁にかけて、上体をかがめる事も無く、お顔をしゃんと挙げて、お皿をろくに見もせずスプウンを横にしてさっと掬って、それから、燕のように、とでも形容したいくらいに軽く鮮やかにスプウンをお口と直角になるように持ち運んで、スプウンの先端から、スウプをお唇のあいだに流し込むのである。
太宰治「斜陽」
なんと一文の文字数は200字超!
しかし不思議と読みにくさはありません。文章の意味もスムーズに理解できます。
結局のところ、文章のわかりやすさは「長さ」だけで判断できるものではありません。
たとえ一文が長くてもわかりやすい文章はありますし、反対に短くても理解しにくい文章だってあるでしょう。
『一文が長い=読みにくい』が常に成り立つわけではないのです。
- 一般論として一文の目安は80字
- スマホで読ませるなら40〜80字がベター
- 小説では文字数よりも「読みやすさ」で判断
長い文章が読みにくく感じる理由
小説執筆において、一文の長さを常に意識する必要はありません。ただし「読みにくい……」と思われるリスクがあることは確かです。
ではなぜ、一文が長いと読みにくく感じるのでしょうか。その理由を2つ挙げてみましょう。
読んでいて息切れしてしまうから
長い文章に問題があるとすれば、それは「読んでいて息切れする」ことでしょう。
さきほどの、200字を超える一文をもう一度読んでみてください。
描かれているシーンはイメージしやすく、意味もすっきり理解できますね。
しかしどこまでいっても文章が途切れないので息継ぎができず、読み切った後にちょっぴり疲れてしまいませんか?
意味は理解できるのになんとなく読みにくい……と感じる原因は、この息切れ感にあるのかもしれません。
作品の世界観「以外」の部分に意識を向ける必要があるから
作品の世界に浸りきれない。これも読みにくさを感じさせる要因のひとつでしょう。
文章を正しく理解するためには、前後の文章とのつながりを意識しながら読む必要があります。
読みやすい文章は前後のつながりが非常にスムーズ。読者は前後関係を意識せずとも意味が理解できるのです。
作品のキャラクターの見た目や性格、彼らが見ている景色……など様々なイメージを頭の中で作り上げ、作品の世界観にどっぷり浸かってもらえます。
しかし読みにくい文章はそうもいきません。
一文が長く読みにくい文章は「文章の意味を理解すること」に意識が削がれてしまいます。
前後関係を見直したり少し前の段落に戻ってみたり、「文章を理解するための行動」に意識の大半を向けなければならないのです。
一文を短くしよう!2つのポイントに注目
作品をわかりやすく、読みやすくするために、一文をもう少し短くまとめたい!
そんなときに意識すべきポイントをふたつご紹介します。
- 単文に注目
- 接続助詞を接続詞に変える
文章を短くしたいなら「単文」に注目!
日本語の構文に注目すると、文章を短くするためのヒントが見つかります。
文章の構造や組み立て方。
最近は中年男性のメッセージ文を揶揄した「おじさん構文」が話題。
日本語の文章は主語や述語の数や関係性によって以下の3つの構文に大別できます。
- 単文
- 重文
- 複文
まずは3つの構文を簡単にご紹介します。
単文
主語と述語が各1つずつの文章です。
例文
わたしは本を読む。
- 主語:わたし
- 述語:読む
例文は主語・述語とも1つずつです。単文は「述語(述部)が1つ」で見分けます。
重文
述語がふたつ含まれている、つまり「単文+単文」の文章です。
例文
今日は気温が高く、日差しも強い。
- 単文:気温が高い
- 主語:気温
- 述語:高い
- 単文:日差しが強い
- 主語:日差し
- 述語:強い
述語(述部)が複数あり、それぞれが独立している場合は重文だと判断できます。
複文
単文のなかに別の単文が組み込まれている文章が複文です。
例文
母が作ってくれたお弁当を食べている。
- 主語:(母が作った)お弁当
- 主語:母
- 述語:作った
- 述語:食べている
1.+2.で単文を構成し、1.のなかにA.+B.(母がお弁当を作った)という単文が含まれています。
つまり【主語+述語】+述語という構成です。
この中で最もシンプルかつわかりやすいのが、最初に紹介した単文です。
文章が長くなってしまったときは、重文や複文を分解するとすっきりします。
ここでは例として、先ほども登場した81字の例文を分割してみようと思います。
例文:81字ノンストップ
普段は一文がおおよそ60字以内に収まるよう意識しながら書いているのですが、今回は例として80字程度の文章を書かなければならないので、文章を区切らずに続けています。
例文:81字を2分割
普段は一文がおおよそ60字以内に収まるよう意識しながら書いています。
しかし今回は例として80字程度の文章を書かなければならないので、文章を区切らずに続けています。
文章が一度切れることで、息継ぎができないような感覚は軽減されましたね。
一文が長くなってしまったときには、文章を区切って単文にできないか考えてみましょう。
接続助詞の使い過ぎに要注意!
必要以上に文章が長くなってしまうとき、その多くに「接続助詞の多用」が見られます。
例文①の4つの単文は一連のシーンを描写していますが、細切れで「一連」さに欠けます。
この4つを接続助詞で連結したのが例文②です。
例文①:細切れ文章
寝坊した。
遅刻しないように急いで駅に向かっている。
朝食は抜きたくない。
パンを食べながら走る。
例文②:一文にまとめる
わたしは寝坊したので、遅刻しないように急いで駅に向かっているが、朝食は抜きたくないので、パンを食べながら走った。
接続助詞(上の例文②では「ので」「が」)を使えば、バラバラな文章を一文56字にまとめることができます。
しかし、一文が長すぎてメリハリがなく、ダラダラと間伸びした印象を受けませんか?
接続助詞を使えば使うほど、文章は長くなっていきます。また一文に「ので」が2度使われており、冗長さが増している印象です。
これを避けるために、以下の方法を取り入れてみてください。
- 文章を途中で区切る
- 接続詞でつなぎ直す
実際にやってみましょう!
例文②:一文にまとめる(56字)
わたしは寝坊したので、遅刻しないように急いで駅に向かっているが、朝食は抜きたくないので、パンを食べながら走った。
例文③:文を区切って接続詞でつなぐ(31字+27字)
わたしは寝坊したので、遅刻しないように急いで駅に向かっている。
しかし朝食は抜きたくないので、パンを食べながら走った。
例文②は56字、文章をふたつにわけた例文③は31字+27字になりました。
一文の長さが56字なら、けっして長すぎることはありません。しかし文章を2分割したことで、より読みやすく、より理解しやすくなりましたね。
文章を区切ることで息継ぎするタイミングが確保でき、息切れする感覚がなくなったからだと考えられます。
とはいえ、むやみやたらと文章を区切って「とりあえず接続詞でつないでおけばOK!」ということはありません。
接続詞だらけの文章はかえって読みにくくなってしまいますので、ご注意を。
大切なのは読者への思いやり
小説を書くうえで、一文あたりの文字数を気にし続ける必要はありません。
大切なのは「伝わる文章」「読みやすい文章」を書くこと。
伝わりにくいな、読みにくいな、と感じたら一文の長さを確認してみるとよいでしょう
文章の長さや文字数にとらわれず、読者にとって心地よい文章を意識することで、より一層すてきな作品になりますよ。
Writer:マスダ キミ / Editor:noveRe: