小説を書籍化する際、楽しくもあり悩ましくもあるのが「本文用紙」のセレクトです。
製本・印刷所では何種類もの用紙を取り揃え、ユーザーが自由に選択する形を取っています。
「小説本セット」「文芸セット」といったセットプランの場合、印刷所指定用紙から選択するか、追加料金を支払って別の用紙を指定することがほとんどです。
製本印刷のプロである印刷所が「小説本セットの本文用紙」に設定している。それはつまり「印刷所おすすめの小説本文用紙」と言い換えることができます。
ということで今回は、印刷所の「小説本セット」で使われている本文用紙の傾向を調査しました。
小説本セットではどんな用紙が使われているのでしょうか。用紙の共通点や選び方のポイントもご紹介します。
調査方法
まずは小説本セットを販売している印刷所を無作為に10社選び、以下の基準で小説本文用紙の採用数を調査しました。
- 小説本セットや文芸セットの本文用紙
- 追加料金不要の基本用紙
- サイズが限定される用紙も含む
- オフセット/オンデマンド/デジタル印刷の設定がある場合はそれぞれから1セット
この基準にて10社15セット(オフセット5/オンデマ9/デジタル1)の本文用紙をチェック。
用紙の種類や色・厚みなどの観点でどういった用紙が設定されているのか調べてみました。
印刷所おすすめの小説本文用紙、気になります!
本文用紙の採用トップ3
15セットの小説用紙を調べた結果は以下の通りです。
No. | 用紙名 | 採用数 | 色 |
---|---|---|---|
1 | 上質紙 | 12 | 白 |
2 | 書籍用紙 | 9 | クリーム |
3 | 淡クリームキンマリ | 5 | クリーム |
4 | コミック紙 | 3 | 複数色 |
5 | その他4種 | 各1 | 白1/クリーム3 |
上位3種についてご紹介します。
1位:上質紙(白)
印刷所のサイトで必ずやお目にかかる用紙といえば「上質紙」です。色付けしたものは「色上質」と呼ばれています。
また用紙のカテゴリーとしても使われるため、後にご紹介する書籍用紙やキンマリが「上質紙」にカテゴライズされることもありますが、今回は用紙の名称として「上質紙」と表記します。
上質紙は特殊な用紙ではなく、私たちの身近なところでよく使われています。分かりやすいのはコピー用紙ですね。
最近は古紙パルプを混ぜ込んだ再生上質紙が多くなっていますが、印刷所の上質紙は「パルプだけ」で作られています。
紙の表面をコーティングしておらず、手触りがさらさらしています。
上の画像は左がアートコート紙、右が上質紙です。並べると「質感」の違いが明白で、触らずとも違いが分かるでしょう。
主張しすぎない質感や風合いが、文字しかない小説本に表情を与えてくれるのです。これこそが小説本の本文用紙として選ばれる理由なのでしょう。
混ぜものがないため強度もあり、パルプの密度の高さゆえに裏写りしにくい利点があります。
2位:書籍用紙(クリーム)
その名の通り書籍のために作られた「書籍用紙」。こちらもカテゴリーとして使われることがあり、複数の用紙が含まれるようです。
書籍用紙と上質紙の大きな違いは「色」。書籍用紙はクリーム色をしており、文字だけを長い時間目で追い続けても目が疲れにくいとされています。またインクを定着しやすく加工しているため、退色しにくいのも特徴です。
インク定着だけでなく透けにくくする加工もされているため「混ぜもの」を含有しています。そのため上質紙に比べるとコシが弱い印象です。
ただしコシの弱さが「めくりやすさ」につながるため、小説本文用紙には最適だといえるでしょう。
上の画像は左が上質紙、右が書籍用紙の一種メヌエットフォルテです。上質紙よりもザラッとしています。
3位:淡クリームキンマリ(クリーム)
「用紙マニア」の方ならご存知、北越紀州製紙(北越コーポレーション)が製造する「淡クリームキンマリ」が第3位です。
さまざまなカテゴライズ方法がありますが、萩原印刷株式会社のサイトによると、淡クリームキンマリは「上質紙」に分類されるとのこと。
実は先にあげた「クリームキンマリ」は書籍用紙ではなくクリーム上質です。他に「琥珀やラフクリーム琥珀」、三菱製紙「クリームエレガ」などもこの類です。
狭義に書籍用紙と呼べるのは日本製紙「オペラ」、北越「メヌエット」、王子「OKミルクリーム」等です。
淡クリームキンマリは書籍用紙に比べるとハリ感があります。また手触りも上質紙に似ていて、ザラつきはないものの質感があります。
上の画像、左が書籍用紙の一種メヌエットフォルテ、右が淡クリームキンマリです。質感が見た目で分かりますね。
文字のような細かい印刷を邪魔せず、わずかな質感で紙がめくりやすく、文字が読みやすいクリーム色。まさに小説のための用紙ですね。
上質紙がベースになっているからか、書籍用紙よりもどことなく高級感がありますし、クリームの色味に温かみが感じられます。
インクトナーの乗りがよく、フォントサイズが小さくても美しく印刷されるのも特徴です。
なお上質紙や書籍用紙は「カテゴリー」を指すことがあると書きました。特に書籍用紙の定義は幅広く、第2位にランクインした「書籍用紙」には複数の用紙が含まれている可能性もあります。
淡クリームキンマリは単一の商品名で第3位。「小説本ならコレ!」という印刷所の自信が見て取れます。
本文用紙の色は圧倒的に白とクリーム!
ほとんどの印刷所が本文印刷をスミ1色指定としているため、色味が強い用紙を提供している会社はありませんでした。
No. | 色 | 採用数 | オフセット | オンデマンド |
---|---|---|---|---|
1 | 白 | 23 | 9 | 10 |
2 | クリーム | 20 | 6 | 12 |
3 | その他5色 | 各1 | 3 | 1 |
色の選択肢としては以下の2種がメインです。
- クリーム
- 白
これ以外では赤/桃/青/ナチュラル/灰系統の用紙が選択肢にありました。
赤はOneBooksの「スカーレットノベル」という文庫専用紙です。系統としてはクリーム系ですが、どこか赤みを帯びているのが特徴です。
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この用紙やナチュラル系の用紙をクリームとして考えれば、白とクリームは同程度といえるでしょう。
興味深いのが、オフセット印刷セットでは白が優勢、オンデマンドではクリームが優勢だった点です。もちろん微々たる差ではありますが。
白色用紙はコントラストがはっきりしているので、文字のわずかな滲みが目立ちやすいのかもしれません。そのため滲みが出にくいオフセット印刷に向いているのではないでしょうか。
用紙の厚さはどのくらい?
同一サイズの用紙1,000枚の重さを「連量」といい、単位をkgで表記します。用紙名の後ろにある「70kg」「110kg」といった数値ですね。
一般的には連量が増えると紙の厚みが増します。例えば淡クリームキンマリ90kgと70kgなら、90kgのほうが厚いため、同じページ数で本を作っても背幅が広くなります。
今回調査した小説セットの本文用紙について、連量を調べてみました。
No. | 1 | 3 | 2 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
連量(kg) | 50〜59 | 60〜69 | 70〜79 | 80〜89 | 90〜99 | 100〜109 | 110〜119 |
採用数 | 2 | 2 | 25 | 7 | 9 | 0 | 1 |
70〜100kg、もっと細かくいえば70〜90kg台前半の用紙がほとんどであり、最多は70kg台前半です。オフセット/オンデマンドによる違いは見られませんでした。
具体的な紙厚がイメージしにくいので、身近な紙の連量をご紹介しましょう。
まずは官製はがきや名刺。こちらの連量が180kgといわれています。紙のメンバーズカードで220kgほど。紙のチケットは110kg程度です。
70kgというとコピー用紙ですね。コンビニのコピー用紙が70kg前後とされています。90kgですとポスターをイメージしてください。もちろんコーティング無しなので、想像よりは薄いかもしれませんね。
小説セットの本文用紙としては、コピー用紙あるいはそれより若干厚みがある用紙が適しているといえるでしょう。
小説セットの本文用紙の特徴
10の印刷所・15の小説本セットについて本文用紙の傾向を確認した結果、いくつかの特徴が見えてきました。
連量が比較的軽め
小説用紙の連量は70〜90kg前後。印刷所のサイトにはさまざまな用紙が掲載されていますが、その中でも比較的軽い用紙が小説本セットに採用されています。
小説は漫画に比べてページ数が増えがちです。用紙が厚ければ重くなり、読者の読みにくさに繋がります。そのため薄手の用紙が設定されているのでしょう。
ただし薄すぎてもめくりにくいですし、用紙の種類によっては裏ページに薄っすら透けてしまうことも。
高価な用紙は設定されない
今回は「追加料金無し」で選択できる用紙について調査しました。
小説本セットに採用される本文用紙のほとんどがマンガ本にも使われる基本的な用紙であり、比較的安価です。だからこそセット価格が実現するのでしょう。
小説本はページ数が多くなるため、高価な用紙を設定するとセット価格自体も高くなります。そのため単価が高い用紙を使いたい場合は別料金がかかるケースが多いようです。
基本は2色
今回調査した10社以外を見ても、やはり白とクリーム色を基本としていました。
調査対象には入らなかったものの色上質紙が選べる印刷所もあるため、ちょっと変わった本が作りたい方でも基本料金内での製作が可能です。
本文用紙はどう選ぶ?
ご紹介した用紙でなければダメ、世の中的にタブー、ということではありません。ご自身が納得できる仕様で本を作ってください。
黒い用紙に白いインクで印刷した本を見たことがありますが、独特の雰囲気がありました。印刷技術の進歩により「これって難しいのかな」と思うことが実現できたりするんです。
ではどのような基準で本文用紙を選べばよいのでしょうか。
ページ数が増えるなら連量はセーブ
当然ですが、ページ数が多いなら薄い紙を使ったほうがいいでしょう。
忘れがちなのが本のサイズです。文庫本サイズとA5サイズ、同じ重さでも手や腕に感じる負荷が変わります。サイズが大判な場合も薄い紙がベストですね。
薄い紙は柔らかく、ページを開くと開いたままになります。一方厚手の紙はコシがあるため、きちんと押さえておかなければページが閉じやすいんです。これが読者のストレスになることも。
厚手でも繊維の密度を下げ、紙質を柔らかくすると同時に軽量化している用紙もあります。こういった用紙を選ぶといいでしょう。
作風に合わせて色を選ぶのもアリ
先程ご紹介した黒い用紙に白いインクの本。こちらはシリアスな作風の小説でした。
春をテーマにしているなら淡い桃色、夏なら水色など、作風で選ぶのも楽しいですよ。小説本セットの用紙は色付きだとしても淡い色なので、文字が読みにくくなる心配もありません。
長編ならクリームがベター
白い紙に黒い文字、という組み合わせは色のコントラストが強く、目が疲れやすいといわれます。
文字数が多い・ページ数が多い作品ではクリーム色の用紙を選んだ方がよいでしょう。書店に置かれている文庫本はクリーム系がほとんどです。
とはいえ白といっても色味にバリエーションがあるので、青みがかった白を選んでフレッシュさを印象づけるという手もあります。
印刷所のオリジナル用紙は失敗しにくい
印刷所オリジナル用紙は、印刷機やインクの特性を加味して作られています。
テカリや滲みを最小限に抑える工夫がなされているので、利用してみてはいかがでしょうか。
読者想いの本を作ろう
ご自身のための記念本なら、あらゆる希望を詰め込んだスペシャルな1冊に仕上げたいですね。
読者の手に渡ることを想定した小説本なら、読者の視点で用紙を選んでみてください。どんな本が読みやすいでしょうか?
ご自身が所有している本を参考にするのもいいですね!